「ドリルを売るには穴を売れ」
マーケティングの世界でよく知られている言葉です。
この言葉が意味しているのはこうです。
お客は商品そのものではなく、商品によって得られる結果を求めている。
つまり、
・機能
・スペック
ではなく、顧客が得られるベネフィット(利益・結果)を伝えることが重要という考え方です。これはマーケティングの基本として広く使われています。
しかし、実際の購買行動を観察すると、もう一歩踏み込んで理解する必要があります。なぜなら人は、「結果」だけで商品を買っているわけではないからです。
ベネフィット理論の整理
まずベネフィットまでの考え方はこうです。
特徴(スペック)
↓
メリット
↓
ベネフィット
(例)ドリル
強力モーター(特徴)
↓
穴が簡単に開く(メリット)
↓
楽々DIYができる(ベネフィット)
このように、「商品機能 → 利便性 → 得られる結果」という形で価値を説明します。
しかし実際には、ベネフィットはさらに複数の種類に分かれます。
一般的には次の3つに分類されます。
①機能的ベネフィット
問題解決の価値
②情緒的ベネフィット
使っていて楽しい、安心などの感情的価値
③自己表現ベネフィット
その商品を通して「理想の自分」を表現できる価値
見過ごされがちなのが、3の「自己表現ベネフィット」です。
自己表現ベネフィットとは
ここで私の経験を話させてください。
私は中学生の時、意味もなく「十徳ナイフ」を購入したことがあります。
※十徳ナイフとは、ナイフをはじめドライバー、ハサミなど色々なツールが収まっているアイテムです。

十徳ナイフが必要だったわけでも、使う予定があったわけでもありません。
でも、無性に欲しくなり買ってしまった。
買ってから、「どこか使える場所はないかな~」と家中を徘徊する始末です。
なぜ私は十徳ナイフを買ったのか。
それは、十徳ナイフを扱える自分に憧れていたからです。別言すれば、「道具を器用に使えこなせる男はかっこいい」という漠然としたイメージがあり、十徳ナイフを買うことでそれに近づけると思ったのです。
これが第三のベネフィット「自己表現ベネフィット」です。
「人は消費の一部を理想の自分とのギャップを埋めるために行う」
そう捉えると、ベネフィットへの理解がもう一段高まります。
消費例
「自己表現ベネフィット」による消費は、多くの商品購買で見られます。
たとえば、
高級腕時計。
高級時計を買うのは、「成功している自分」という理想像を得るためです。
スポーツジム。
「鍛え上げられた自分」という理想像に近づくためです。
Macもそうです。
「クリエイティブな自分」を演出するためです。
このように人は、理想に近づくために消費を行っているのです。
ドリルを買いに来たお客は、本当に穴が欲しいのか?
ここで、最初の話に戻ります。
「ドリルを売るには穴を売れ」
これは機能ベネフィットに注目した考え方です。
ドリルを買いに来た人は、何を買いに来ているのでしょうか?
穴や完成品が欲しい場合もあるかもしれません。しかし、顧客が求めているのが「日曜大工ができる父親という自分」だった場合、「穴の開いた板ならありますよ」「完成品ならありますよ」という提案は、お客の本当の動機からズレてしまっています。
「ドリルを売るなら穴を売れ」
この言葉のもととなっているのは、1968年に出版された『マーケティング発想法(Marketing Imagination)』(著 セオドア・レビット)の中にある一文かと思います。「1/4インチのドリルが売れたのは、ドリルが欲しかったからではなく、1/4インチの穴が欲しかったからだ」です。これが「人々が欲しいのはドリルではなく穴である」となり、日本では「ドリルを売るには穴を売れ」となって伝わりました。
お客のイメージする理想像とベネフィットを合致させる
ベネフィットを絞り出す思考法の一つに、「それでどうなる?」があります。
「A商品には◯◯のメリットがある」
「それでどうなる?」
「◯◯な生活ができる」
「それでどうなる?」
「◯◯な自分になれる」
このように掘り下げていくと、自己表現ベネフィットが見えてきます。
「自己表現ベネフィット」を洗い出し、お客が望んでいる理想像にフィットすれば、購買意欲を喚起させられます。
まとめ
「ドリルを売るには穴を売れ」
この考え方は間違いではありません。
しかし、それだけでは不十分です。
なぜなら人は、結果だけではなく自分の理想像に近づくためにも消費をするからです。
だから商品を売るときに本当に重要なのは、「この商品で何ができるか」ではなく、「この商品で、どんな自分になれるのか」です。
顧客が思い描く理想の自分と商品が結びついたとき、購買意欲は大きく動きます。




