「無料」という名の魔物を飼いならせ – 集客・販促での扱い方

「無料」「タダ」「進呈」「プレゼント」。
広告・販促において、これ以上に強力な言葉があるでしょうか?

「無料」には、人を引き付ける力があります。それも強力な。「無料」と「有料」とでは、集客力が10倍も違うと言う人もいるほどです。正確な数字はさておき、雲泥の差があることは間違いないでしょう。

「無料」が強力であるのは確かですが、完全無欠ではありません。扱い方を間違えれば、収益を得るどころかコスト倒れになることさえあります。まさに「魔物」です

今回はそんな「無料」という名の魔物を飼いならす方法をお伝えします。

この記事を書いた人
セールスコピーライター
深井 貴明

広島県在中。
1999年~2009年の約10年間、飲料水、化粧品、医薬部外品、エコ商品などを製造販売する会社に勤務。そこでコピーライティングに出合い、実践と研究を繰り返す。FAXDMだけで90日間に1,533件を新規開拓、2,000件に満たないリストから1億円を売り上げるなどの成果をあげる。
2009年からセールスコピーライター&コンサルタントとして活動を始める。東証上場企業、非上場の大手企業、アフィリエイト専門会社の専属コピーライターとして従事。ほか、個人事業主から中堅企業までの広告・販促物制作に携わる。
「進化心理学×行動経済学」の知見をセールスライティングに落とし込んだ独自の理論を提唱している。

目次

そもそも、なぜ人は無料を好むのか

なぜ、人は無料に惹かれるのでしょうか?
おそらく、リスクがゼロだからでしょう。

当然ですが、商品を購入すればお金を失います。確実に起こる消失です。もしかしたら支払ったお金と見合わない買い物をする可能性もあります。無料なら、そうした消失も消失に伴う心配もありません。

消失がゼロだと分かれば、人は躊躇しません。欲しければ必ず手を伸ばすでしょう。見方を変えれば、人はそれだけ消失を避けているとも言えます。

行動経済学の研究では、人は利得よりも損失を1.5〜2.5倍重んじることが分かっています。こうした心理を「損失回避性(損失回避の法則)」と呼びます。

利得1に対して損失1.5〜2.5という比率は、お金を賭けたコインゲームの参加傾向から算出されています(ほかにも実験はありますが)。裏が出た時に100ドルを失うとして、表が出た時には150ドル〜250ドル得られなければ、多くの人はゲームに参加しようとしなかったのです。

このように人は、利得と比較して損失に過剰反応(損失回避性)します。ですが、無料なら損失回避性は働きません。失うものが何もないのですから。

損失回避性が強いのは女性

人には、損失回避性があると分かりました。
さらに、男女によって損失回避性の強さは異なります。

先と同じように、コイン実験を男女別で行いました。
裏が出たら1,000円を失う、表が出たら◯◯◯◯円を得られる。この◯◯◯◯円がいくらなら勝負をしてもよいと思えるのか。594人(男性404人、女性190人 10〜70代)を対象にしました。

結果は、平均2,499円。
男女で分けると男性平均2,355円、女性平均2,804円でした。結果を見て分かる通り、男性よりも女性のほうが損失回避性は強く働いています。

男性よりも女性のほうが損を嫌うのですから、セールや無料に飛びつきやすいのも女性のはずです。実際、セールの多い楽天モールのメイン客は30~60代の主婦層です。商業現場でも女性の損失回避性の強さは表れているようです。

男性は損失回避性が女性よりも低く、ある意味ギャンブル性を好むとも言えます。2014年発表された厚生労働省の調査報告によると、ギャンブル依存症の数は、男性438万人:女性98万人とのことです。ギャンブル依存症に表れる男女差は、おそらく進化の名残だと考えられます。

狩猟採集時代、男性は肉を求めて狩猟をしていました。しかし、毎日狩りが成功するわけではありません。坊主な日が数日続くことだってあります。

この時代、狩りに行きたがらない男、成功率の低い男は、女性から認められず子孫を残せませんでした。女性から好まれるのは、狩猟に挑み続け、成果を上げる男性です。こうして男性には、一定のギャンブル性を好む遺伝子が残っていきました。

一方女性は、木の実や野草を採集していました。こちらはほぼ確実に手に入るものです。採集を選んだのは、男性よりも力がないためだけではありません。妊娠から子育ての数年間、女性は子どもを守るため狩猟には出られなかったからです。

仮に、狩猟に出たとしても、数日獲物が獲れなかったら子どもは死んでしまいます。そんなギャンブル性の高い食料よりも、確実に栄養やカロリーが取れる採集を選んだと考えられます。

こうして女性には、堅実性を好む遺伝子が残っていきました。男性より女性のほうがお金の管理ができてコツコツした作業が苦にならないのも、このためかもしれませんね。

※ちなみに、消費者金融からの借金は男女比は8:2です。男性のほうが生涯収入は多いにも関わらず、女性よりも借金をしているのです。この事実は、それだけ女性に比べて男性はお金の管理が下手(堅実性が欠けている)なのを表していると言えます。

日本人はリスクがお嫌い

日本人は、幸せホルモン『セロトニン』の分泌量が世界一少ない民族として知られています。セロトニンが少ないとどうなるのか。「不安」を感じやすくなります。

言われてみれば、日本人は世界と比べて陽気さに欠けますし、心配性ですよね。日本人が貯金好きなのも、株式投資をする人が少ないのも、世界幸福度ランキングの順位が低いのも、セロトニンの影響かもしれません。

また、「世界価値観調査」(2005年〜2008年)によると、日本人は不確実性(リスク)を最も嫌う国民だと判明しています。

こうした国民性から、何かを売り込むときは、不確実性を訴えて不安がらせるのが効果的だと推察できます。日本で『PASONAの法則』が人気になったのも必然かもしれませんね。
関連記事:日本人に『PASONAの法則』が効果的である3つの根拠

無料という名の魔物に喰われるな

「無料で集めたお客は購入してくれない」
そう嘆いた経験はありませんか?

友達関係から入ると恋人関係に発展しづらいように、無料から入ると有料に発展しづらくなります。無料に釣られたお客は、無料が基準(アンカー)となってしまうためです。お金を支払ってもらうには、相当な労力を要します。下手をしたらコスト倒れに陥ることもあります。

また、「無料」があまりにも集客力が強いため、人はその力にかまけて、商品価値を伝える努力を疎かにしてしまいがちです。それこそが無料の持つ危険な魅惑。この魅惑にひっかかることなく扱えた者だけが、「無料」と言う名の魔物を飼いならせるのです。

では、どうすればいいのか。
商品価値を「メイン」に置き、無料を「サブ」に持ってくるのです。

具体的には、「無料で◯◯がもらえます」ではなく、「~~ができる◯◯が今だけ無料です」とします。商品価値をしっかりと伝えたうえで無料をアピールするのです。

加えて、元々の価格も伝えます。たとえサンプルであってもです。「◯◯◯◯円相当」という表現でも構いません。

予め販売しておき既成事実を作るのも手です。販売した実績があれば、「3ヶ月前まで◯◯◯◯円だった商品が無料です」と謳えられます。

なぜ、こうまでして価格を提示したほうがいいのか。それは、基準となる価格が分からなければ、人はそのものの価値を認識できないからです。

これは値引き販売でも同じです。
定価を明記してから値引き額を載せないと、お客は得した気分になりません。

アメリカのファッションブランド「JCペニー」の事例を紹介します。この会社は定価から大きく値引きして販売するスタイルで知られていました。

それが、2021年にロン・ジョンソンがCEOに就任すると一変。ジョンソンは、値引きを前提にした割高な価格設定は不適切だと考え、はじめから定価自体を安くするようにしたのです。

すると、どうなったか。客離れが起きました。値引きがなくなり、お得感を感じられなくなったからでしょう。1年と経たず9億8,500万ドルの純損失を計上し、ジョンソンは更迭されました。その後、「JCペニー」は元の売り方に戻しました。

このように、お得感は基準となる定価があってはじめて得られます。はじめから安くしていては、お得感は得られないのです。加えて、定価と値引き後の値段のギャップが大きいほど、お得感も増大します。
関連記事:誘い文句で変わる客層

「無料」の具体的な飼いならし方

さらに「無料」の具体的な飼いならし方をお伝えします。
代表的なものは3つあります。

  1. 無料特典
  2. 無料付録
  3. 諸経費の無料

一つずつ説明します。

1.無料特典

「今お買い上げいただくと、◯◯◯◯円相当の△△も付いてきます」
TVショッピングなどでお馴染みのフレーズですよね。

この売り方の面白い点は、「特典を含めた価格」とはしていないところです。あくまでも、商品(価格)とは別に「無料で何かが付いてくる」の体を保っています。おそらく、試行錯誤と検証の結果、このやり方が売れると判断したからでしょう。

これと似ているのが、「3本買ったら1本タダ」です。1本をプレゼントする前提なら、25%OFFにしても実質的には同じです。しかし、そうはしません。25%OFFよりも「3本買ったら1本タダ」のほうが3本を買わせる力があるからです。つまり、お得感を与えられるのです。

私が美容師向けに店販用のヘアケア液を販売していたときの話です。まとめ買いを誘発するために、本数に応じて同商品をおまけとして付けました。「10本買ったら2本プレゼント」といったように。そうしたら、どうでしょう。10本まとめ買いに注文が集中したのです。

「どの道いつか買うものだし、おまけの付いている本数を買うか」となったんだと思います。多く買い込んでしまう分、懸命に販売もしてくれたはずです。なぜ分かるのかって。一時的ではなく、長期的にヘアケア液の売上が増えたからです。

2.無料付録

出版不況が叫ばれ、数多くの雑誌が廃刊に追い込まれています。
そんな中、売上を伸ばしている女性雑誌がいくつかあります。「リンネル」「ステディ」「MUSE」「&ROSY」などです。

これら雑誌に共通する特徴は、付録です。なんと、高級ブランド品の香水やバッグが付いてくるという大盤振る舞い。

付録を使ったビジネスは、ほかにもあります。昔懐かしく、今も人気な『ビックリマンチョコ』がそうですね。30年前私もよく集めていました。今では、さまざまなアニメとコラボして子どもたちの支持を集めています。

こうした付録は、申し訳ない程度のものではなく、「それだけでも買いたい」と思わせるほどの魅力を持ちます。メインになれるものをあえて付録に据えているのです。

商品と付録は、建前と本音みたいな関係です。
建前が商品、本音が付録。建前上チョコを買っているけど、本当に欲しいのはシール、みたいな。

「無料特典」と「無料付録」って、どう違うの?

ここまで話を聞いて、「無料特典」と「無料付録」の区別が難しいと思ったかも知れません。「商品+α」な点は同じですからね。

無料特典は、特定の条件下でおまけを付けることを指します。革靴を買ったら中敷きが付いてくる、といった具合に。決してメインにはなりません。

無料付録は、商品とは何の関連性のないおまけを付けることを指します。ハンバーガーセットを買ったらおもちゃが付いてくる、といった具合に。

上記は、私が便宜上使い分けているだけなので、まとめて「おまけを付ける」と一緒にしても構いません。

3.諸経費の無料

商品に付随して、送料や工賃などといった諸経費がかかることがあります。できれば、こうした諸経費は無料にしたほうが好ましいです。それによって商品価格が上がったとしても、です。

理由は2つあります。
一つは、「無料」という言葉を使えるからです。「無料」の文字が使えるだけでも、注文率は向上します。

もう一つは、価格によるハロー効果が期待できるからです。※ハロー効果とは、ある対象を評価するときに、目立つ特徴に引きずられて評価が歪められる現象を指す。

価格のハロー効果について、私の体験を交えて解説します。

私はAmazonを介して書店から中古本をよく注文します。ある時、2通りの価格設定があることに気づきました。

「高めの価格+送料無料」と「安めの価格+送料」です。
たとえば、「650円+送料無料」「200円+送料450円」です。

さて、どちらのほうが本の状態が良さそうに見えますか?
前者ですよね。

商品の価格だけ見れば、650円と200円です。前者のほうが状態が良いと思うのは当然でしょう。でも実際は、ただ単に送料を価格に上乗せしているだけかもしれません。合計金額は同じなのに、前者のほうが状態が良いと思われるのです。

一方後者の「200円+送料450円」だと、「状態が悪いくせに送料まで取るのかよ!」と思われてしまいます。

片方は、状態が良いうえに送料まで無料にしてくれる太っ腹。もう片方は、状態が悪いうえに送料まで請求するドケチ。合計金額が同じでも、価格の見せ方によってこうも印象が異なるのです。不思議ですよね。

【ほか、企業が負担できる諸経費】

・電話料→フリーダイヤル
「通話料無料のフリーダイヤルまで」と、通話料が無料であることを伝える。「0120」が不足して「0800」のフリーダイヤルも出てきているため、無料だと伝えないと認識しない人もいます。

・支払い手数料→売り手が負担
有名なTVショッピングの会社は、分割払いの際に生じる手数料を売り手が負担しています。分割払いに抵抗を覚えている人の背中を押せます。

ビジネスによっては、ほかにも諸経費があるはずです。それらを価格に盛り込み、「無料」を提示できないかと考えてみてください。

【ハロー効果についてもう少し詳しく】

3,000円のワインに10,000円のラベルを貼ると、飲用者の満足度は本物(10,000円)ワインを飲んだ時と同じになります。

薬のプラシーボ効果は、価格が高くて小サイズほど強く働きます。健康ドリンクも同じです。容量の少ないものほど効果が高いと人は思い込みます。

ハロー効果は、一種の暗示のようなものです。狙いに合わせて「◯◯そう」と思われるように見せるのです。高級品を売りたければ、商品の中身よりも包装を高品質にしたほうが売れます。

ゼロコストなら無料を前面にしても構わない

無料サンプル、特典、付録はコストがかかります。一方、ダウンロード式の資料やメルマガ登録は、どんなに増えてもコストはかかりません。

ゼロコストなら、無料を前面に出しても構いません。成約につながらないリストばかり集まったとしても、コストはかかりませんからね。もちろん、価値をしっかりと伝えたほうが良いリストは集まります。

無料を前面に出す施策として、「無料」の文字を目立つ場所に載せましょう。縦書きの広告ならキャッチコピーの文頭に、横書きの広告ならキャッチコピーの左側に「無料」の文字を置きます。目線の動きに対応しているため、目に入りやすくなります。

「無料」がはじめに目に入る影響は想像以上に大きいです。それを顕著に表した事例があります。有名なマイクロコピーの事例です。

CTAボタンのコピーを「資料を無料ダウンロード」から「無料で資料をダウンロード」へ変更したら、どうなったのか。なんと、CVRが1.5倍もアップしたのです。「無料」の文字を文頭に持ってきただけなのに。

CVRが上がった要因は、2つあると私は考えます。
一つは、無料を左側に持ってきたことにより、無料である旨を認識する人の割合が増えたから。もう一つは、初頭効果によって無料の文字が強く印象付けられたから。※初頭効果とは、はじめに見たものほど印象に残るといった心理作用です。

特に2つ目の影響は大きいと考えます。
「無料」といった魅力的な言葉やインパクトのある言葉が頭に来れば、その言葉の印象は強く残ります。

語感の世界でも、最初に来る音が印象に大きな影響を与えることが分かっています(ちなみに私は、語感の第一人者である黒川伊保子先生から、語感について直接学びました)。

たとえば、「ギガデイン」と「インデギガ」なら、どちらが強そうに聞こえますか? 字の並びが違うだけです (「ギガデイン」は、ドラゴンクエストに出てくる雷系の魔法呪文名)。

おそらく、「ギガデイン」のほうが強そうに聞こえたはずです。「ギガ」は「デイ」よりも力強さの印象を与えるからです。

文字の並びによって印象が変わるなんて、考えたこともなかったと思います。ましてや、行動変容まで起こさせるなんて。

こういった心理効果に「無料」が掛け合わされれば、その効果は絶大です。先ほど紹介したマイクロコピーの事例がまさにそうです。
関連記事:CTAボタンに使えるマイクロコピーの書き方

まとめ

今回は戦術レベル(広告・販促)における「無料」の取り扱い方について解説しました。本記事が広告物や販促物を作る際、お役に立てれば幸いです。

PS
「無料」を使った広告や販促の経験があれば、ぜひコメント欄にお寄せください。失敗談や成功談、どちらでも構いません。みんなで知識を共有できたらなと思います。

以下、参考文献

『ザ・マイクロコピー』(著 山本 琢磨)
『サクッとわかるビジネス教養 行動経済学』(著 阿部 誠)
『怪獣の名はなぜガギグゲゴなのか』(著 黒川 伊保子)
『ことばのトリセツ』(著 黒川 伊保子)

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この記事を書いた人

深井貴明のアバター 深井貴明 セールスコピーライター

広島県在中。
1999年~2009年の約10年間、飲料水、化粧品、医薬部外品、エコ商品などを製造販売する会社に勤務。そこでコピーライティングに出合い、実践と研究を繰り返す。FAXDMだけで90日間に1,533件を新規開拓、2,000件に満たないリストから1億円を売り上げるなどの成果をあげる。
2009年からセールスコピーライター&コンサルタントとして活動を始める。東証上場企業、非上場の大手企業、アフィリエイト専門会社のコピーライターとして従事。ほか、個人事業主から中堅企業までの広告・販促物制作に携わる。
「進化心理学×行動経済学」の知見をセールスライティングに落とし込んだ独自の理論を提唱している。

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