日本人に『PASONAの法則』が効果的である3つの根拠

コピーライティングを学んだ人なら、誰もが知っている『PASONAの法則』。
様々あるセールスライティングの型の中でも、最も効果が高いと評されています。

発案者である経営コンサルタントの神田昌典氏は、この評価を喜んでいるのでしょうか。
私が見る限り、「PASONAの法則」が良識を持たない人たちに使われていることに心を痛めているように思います。

実際、神田氏は書籍『稼ぐ言葉の法則』の中で、「インターネット上を見ると、この法則が誤解して使われているケースも散見される。開発者の私としては、この状況はいたたまれない。」と記しています。加えて、本書において、煽らない形の「PASONAの法則(新PASONAの法則)」を発表しました。

神田氏が日本語監修をした『ストックセールス』の帯には、「【悲報】PASONAの法則が、顧客流出の原因だった…」と書かれています。

2021年出版の『コピーライティング技術大全』では、「PASONA」の深化版として「PASBECONA」を提唱しています。これらのメッセージから、『PASONAの法則』から卒業してもらいたいといった神田氏の思いが垣間見えます。

しかし、それでもなお「PASONAの法則」を使う人は後を絶ちません。

なぜか?
それだけ強力だからです。

なぜ強力に働くのか、その根拠を3つご紹介します。

この記事を書いた人
セールスコピーライター
深井 貴明

広島県在中。
1999年~2009年の約10年間、飲料水、化粧品、医薬部外品、エコ商品などを製造販売する会社に勤務。そこでコピーライティングに出合い、実践と研究を繰り返す。FAXDMだけで90日間に1,533件を新規開拓、2,000件に満たないリストから1億円を売り上げるなどの成果をあげる。
2009年からセールスコピーライター&コンサルタントとして活動を始める。東証上場企業、非上場の大手企業、アフィリエイト専門会社の専属コピーライターとして従事。ほか、個人事業主から中堅企業までの広告・販促物制作に携わる。
「進化心理学×行動経済学」の知見をセールスライティングに落とし込んだ独自の理論を提唱している。

目次

1.人は利得よりも損失に強く反応する

行動経済学者のダニエル・カーネマン氏とエイモス・トベルスキー氏が提唱した有名な説に「プロスペクト理論」があります。この理論の柱の一つに「価値関数」があります。一言で言い表せば、「人は利得よりも損失を強く感じる」です。その差は1.5倍~2.5倍と言われています。

たとえば、1万円を得た時の喜びと、1万円を失った時の悲しみとでは、失った時のほうが感情の振れ幅は大きいのです。

つまり、「得」「損」どちらでも表現可能であれば、損を強調したほうが人を動かしやすい、というわけです。「あなたは5万円得をします」ではなく「あなたは5万円損をします」と伝えましょう。損失回避しようと、人は慌てて行動を起こすはずです。

2.不安は脳を7倍活性化させる

書籍『♯HOOKED 消費者心理学者が解き明かす「つい、買ってしまった。」の裏にあるマーケティングの技術』(著 パトリック・ファーガン)に書かれている実験結果です。

280単語が並んだリストを見せられた被験者は、ポジティブな単語よりもネガティブな単語を記憶しました。また、400名の脳をスキャンした実験では、恐怖はニュートラル時と比べて、脳(扁桃体)が7倍活性化しました。ちなみに、SEXは4.8倍です。

人は、SEXよりも恐怖に反応するのです。
これは進化の観点から見ても合点がいきます。恐怖に鈍感な生き物は、捕食者の餌となり、生き残れないからです。命あっての物種(SEX)といったところでしょう。

不安を煽る効果はどれぐらいあるのでしょうか。
『PRE-SUASION』(著 ロバート・チャルディーニ)に、オランダの医療チームによる患者の行動を変えるアプローチ実験が紹介されています。患者に恐怖を煽ってワークショップを進めた場合と、煽らないでワークショプを進めた場合では、前者のほうが後者の4倍以上も申し込みが多かったそうです。

「でもそれって、オランダでの結果でしょ?」
そう思った人、安心してください。いや、むしろ喜んでください。

もし相手が日本人なら、なおさら効果があったに違いありません。
なぜなら、日本人は世界で最も不安を抱えやすい民族だからです。

3.日本人は、不安を抱えやすい

人間の脳からは、「幸せホルモン」と呼ばれる「セロトニン」が放出されます。セロトニンの分泌量が多いほど幸福感を覚え、少ないほど不安を覚えます。不安になると人は消極的になり、周りに合わせようとするものです。また、足並みを揃えない人を嫌う傾向もあります。

おや、なんだか日本人みたいですよね。

実は、セロトニンの分泌量が世界で最も少ないのが日本人なのです。
人間には、セロトニンの分泌量を左右する「セロトニントランスポーター遺伝子」があります。この遺伝子は2種類あります。セロトニンの分泌量の少ない「S型」と、分泌量の多い「L型」です。2つの組み合わせによって、「SS型」「SL型」「LL型」の3つに分かれます。

日本人はSS型が世界で最も多く占める(全体の68.2%)国なのです。ちなみにアメリカ人のSS型は、全体の18.8%です。

日本人がマナーにうるさいのも、同調圧力が強いのも、前例がないものにチャレンジしようとしないのも、世界に比べて貯蓄率が高いのも、セロトニンの分泌量の少なさが起因しているのかもしれません。

「不安を感じやすい」、これはつまり「PASONAの法則」と相性が良いという意味でもあります。困ったことに、相性が良すぎるのです。

「PASONAの法則」を使われると、お客(特に日本人)は、悪い未来を想像して心拍数が上がり、嫌な汗まで流れてきます。最後には、震える手で商品をポチってしまうのです。この表現は言い過ぎだとしても、不安を煽る手法が効果的なのは間違いありません。

大手広告代理店も不安を利用して売っている

何十億、何百億円ものTVショッピングに予算を充ててきた広告代理店が最終的に行き着いた答えも、「不安を前に出した広告」です。

どこの代理店か。
それは、あの悪名高い、いや日本一の知名度を誇る「電通」です。

九州電通と心理学者が共著した書籍『売れる広告 7つの法則』(著 電通九州・香月勝行、妹尾武治、分部利紘)によると、TVショッピングの必勝パターンは「ネガティブからポジティブに転じる構造」だそうです。

TVショッピングは、何気なくTVを見ている人に対して商品を売る番組です。興味や関心があって自らWebサイトを訪れた人に物を売るのとはわけが違います。目的意識を持っていない視聴者らに向かって商品を売っているのです。そんな彼らが、試行錯誤、テストを繰り返し、最終的に行き着いた形が「不安を前に出した広告」なのです。

もう納得いただけたかと思います。
『PASONAの法則』がなぜ今も使われ続けているのかを。そう、日本人と『PASONAの法則』は、危険なほど相性が良いからなのです。

『PASONAの法則』の弱点

商品を一つでも多く売りたければ、「PASONAの法則」を使って不安を煽って煽って煽りまくりましょう。お客は救いを求めて、あなたの商品へ手を伸ばすはずです。

ですが、「PASONAの法則」にも弱点があります。それも2つ。

一つ目の弱点は、娯楽系の商品には使えないことです。
たとえば、フルーツジュースを売るのに不安は煽れません。お客は心地よくなりたいためにジュースを求めているはずです。そんなお客に対して煽る必然性がありません。

そういった商品の場合、どうしたらいいのか。
それは私が販売している教材『売れる文章設計法』をお求めいただければ万事解決です。この教材では、快楽提供型の商品を売るためのコピーライティングを伝えています。いいでしょ、少しぐらいCMを入れたって。

もう一つの弱点は、ブランディングが築けないことです。
不安を煽りまくる企業でブランディングに成功している例を私は知りません。不安や心配事を解消する商品を扱っている企業も、商品を宣伝する広告では表現を抑え、品を落とさないようにしています。ブランドに傷が付くからです。

不安を煽らない売り方は、短期的に見たら機会損失をしているのかもしれませんが、長期的に見たら、そのほうが利益は大きくなります。

ある程度の企業規模になったら、「PASONAの法則」は卒業したほうがいいでしょう。私も数億レベルの売上をあげている企業の広告物を作る際は、煽り表現は抑える、または控えるようにしています。煽って短期的に売り上げても、その先良いことがないからです。

まとめ

「PASONAの法則」について、セールスライター歴18年以上の私の偽らざる本音を書きました。強力な訴求力を持つがゆえに、扱い方や倫理観が求められます。人を不幸にするような使い方はしてほしくありません。神田氏もそれを望んでいるはずです。

商品特性や企業ステージに合わせてライティングスタイルは変わっていきます。総合的な観点から考え、どんなライティングが好ましいのか、ぜひ考えてみてください。

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この記事を書いた人

深井貴明のアバター 深井貴明 セールスコピーライター

広島県在中。
1999年~2009年の約10年間、飲料水、化粧品、医薬部外品、エコ商品などを製造販売する会社に勤務。そこでコピーライティングに出合い、実践と研究を繰り返す。FAXDMだけで90日間に1,533件を新規開拓、2,000件に満たないリストから1億円を売り上げるなどの成果をあげる。
2009年からセールスコピーライター&コンサルタントとして活動を始める。東証上場企業、非上場の大手企業、アフィリエイト専門会社のコピーライターとして従事。ほか、個人事業主から中堅企業までの広告・販促物制作に携わる。
「進化心理学×行動経済学」の知見をセールスライティングに落とし込んだ独自の理論を提唱している。

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