「論理的であれば、人を説得できる」
そう思っていませんか。
しかし、それは間違いです。論理は、人を説得させるための一つの要件に過ぎません。それも、最も重要性の低い要件です。
私は、セールスライティングの執筆業をしています。いわば、言葉を使って人を動かす仕事です。
人を動かすための知見を深めるため、心理学をはじめ、詭弁術や弁論術、レトリックなどを学んできました。そこで分かったのは、人を動かすには、論理よりも人柄と感情のほうが大切だということです。
古代ギリシャの哲学者アリストテレスも、人を説得するには人柄(エトス)感情(パトス)論理(ロゴス)が重要と説き、とりわけ人柄と感情を重視しました。
いくら論理的に話せても、発言者である「あなた」という人間を信じてもらえなければ、相手はYESと言いません。感情が喚起されなければ、行動を起こしてくれません。
相手があなたを信じ、感情が喚起されて、はじめて論理的な説得が意味を成すのです。この話は、コミュニケーション、プレゼンテーション、ネット上における情報発信すべてに通じます。
今回は、人を説得するための「人柄」「感情」「論理」について解説します。
広島県在中。
1999年~2009年の約10年間、飲料水、化粧品、医薬部外品、エコ商品などを製造販売する会社に勤務。そこでコピーライティングに出合い、実践と研究を繰り返す。FAXDMだけで90日間に1,533件を新規開拓、2,000件に満たないリストから1億円を売り上げるなどの成果をあげる。
2009年からセールスコピーライター&コンサルタントとして活動を始める。東証上場企業、非上場の大手企業、アフィリエイト専門会社の専属コピーライターとして従事。ほか、個人事業主から中堅企業までの広告・販促物制作に携わる。
「進化心理学×行動経済学」の知見をセールスライティングに落とし込んだ独自の理論を提唱している。
人柄編:「何を」よりも「誰が」のほうが大事
メッセージは、内容よりも誰が発信したかのほうが重要です。同じ発言でも、無名の人なら戯言に、成功者なら名言になります。
「発言内容と発言者は区別して評価すべきだ。私はそうしている」と主張する人もいるでしょう。しかし、それはほぼ不可能です。
もし、それが可能な状況であるとすれば、その発信者が誰なのかを知らない場合だけです。知ってしまったら最後。もう、発言者抜きで発言内容を評価することはできません。
あなたも経験があると思います。
文学作品を読んだ後、作者の経歴や生い立ちなどを知り、作品の捉え方がガラリと変わったことが。
私の経験を一つ挙げれば、漫画『天才バカボン』があります。作者の赤塚不二夫氏が満州からのひきあげ者だったと知ってから、作中に出てくる言葉「これでいいのだ」に重みを感じるようになりました。
このように、作者情報一つで作品の見え方がガラリと変わります。そして一度知ってしまったら、もう知る前には戻れないのです。
情報の評価は、発信者の影響を受ける。これが良いか悪いかは、今回は置いておきます。大事なのは、この事実を受け入れることです。あなたが発信する情報は、あなたという人間も込みなのです。
ではここから、「誰(人柄)」への信頼は、何によって決まるのかについて解説していきます。
人柄への信頼性を高める3つの要素
人柄への信頼性を高める要素は3つあります。
- 価値観
- 専門性
- 利他性
一つずつ解説します。
1.価値観
あなたが誰かに何かを訴えたいのなら、相手の持つ価値観を共有していなければいけません。人は、自分と同じ価値観を有している人間の話にしか耳を傾けようとしないからです。
ミニマリズムを語るとき、あなたはミニマリストでなくてはいけません。個人の自由を語るなら、あなたは個人の自由を重んじるリベラルでなくてはいけません。
支持・賛同していなかったとしても、少なからず理解を示す必要があります。それができなければ、コミュニケーション齟齬を必ずきたします。
このことにちなんだ、私の失敗談を一つ紹介しましょう。
15年ほど前、私は大学の教授が書いた論文を手直ししたことがあります。信じられないほど、難解で分かりづらい文章だったため、私はどうにかして平易で読みやすいものにしました。
周りの人にも見てもらい、皆から「圧倒的に読みやすくなった」と評価されました。しかし、当の教授は不満げでした。あの時、なぜ不満だったのか分からなかったのですが、今なら分かります。難解に書いたほうが賢く見えるといった価値観が教授にあったからです。
つまり私は、自分の価値観(分かりやすいほど良い)によって文章を直してしまったがために、相手の価値観(頭が良く見える)を蔑ろにしてしまったわけです。
このように、相手の価値観を理解していなければ、どこかで齟齬をきたします。相手を説得させたいなら、相手の価値観を起点にして話を進めていかなくてはいけません。
たとえば、あなたが勤める会社の社長が愛人に夢中だったとしましょう。社長に広告宣伝の許可を求める際、「この広告を出せば、お客からのイメージが高まります」などと説得にかかってはいけません。「この広告を出せば、社長のパートナーは、より一層社長を尊敬すると思います」とそれとなく伝えれば、許可が降りやすくなります。
まずは相手の価値観を見抜き、次に相手の価値観に沿うような提案をする。これは、情報発信するうえでも欠かせない姿勢です。言い換えれば、読者を理解しようとする姿勢でもあります。
2.専門性
相手の価値観を理解すれば、相手はあなたを受け入れ、話を聞いてくれるでしょう。ですが、それはあくまでもあなたに好感を覚えただけであって、能力を信頼したわけではありません。
仮に、あなたがヘアケアに関する情報を発信していたとしましょう。あなたが美容師なら、相手は情報を信じて読んでくれますが、あなたが素人なら話半分で読まれます。
発信内容を信じてもらうには、「専門性」が必要です。ここで言う専門性とは、読者から見て「私の抱えている課題を解決してくれる能力がありそう」と思われることです。
具体的には、知識、スキル、資格、実績、肩書きといったものを示します。心理学的な用語を使えば、「権威性の法則」です。
関連記事:【悪用厳禁】『権威性の法則』で人を従わせるための8大要素
専門性を示す場面は、主にプロフィールです。
SNSならプロフィール欄、Webライティングなら本題に入る手前でプロフィールを載せます。
本文中でも、あなたの経験を語るようにします。
たとえば、交通事故について語るなら、あなたが経験した事故を語るのがいいでしょう。実体験から発せられる言葉は、本を100冊読んだ人の言葉よりも重いです。
ほかにも、専門性を高める方法があります。それは、「中庸であるように見せる」です。
中庸に見せる方法は2つあります。
一つは、「いろいろな意見があるので、私の言葉ばかりを鵜呑みにせず、自分でも調べてください」「私と逆の意見を言う人もいます」と述べることです。自分以外の意見があることを示せば、相手からは公平感(中庸)を持った人に映ります。
もう一つは、「両極端の意見の真ん中を選ぶ」です。人は、真ん中の意見に位置する人を中庸な人と判断し、客観的に物事が見えていると思い込みます。そこであえて、両極端な意見を紹介し、自分はその中間に位置すると表明するのです。
3.利他性
利他性とは、自分の利益よりも相手の利益を優先することです。この姿勢が伝われば、相手はあなたの言葉を信じます。
純粋な口コミや紹介は、相手の利益のために伝えているため、話を信じて聞いてくれます。
逆に、自分の利益が目的だと思われたら、話を信じてもらえなくなります。アフィリエイターがまさにそれです。報酬をもらうための商品紹介だと思われているため、あまり好かれません。むしろ、利他性の仮面をかぶっている分、嫌悪されます。
政治家への不信感も同じです。「自分の利益のために政治をしている」と有権者から思われた政治家は信じてもらえなくなります。
では、どうやったら利他性を伝えられるのか。
やり方は二つあります。一つは、「自分の利益を手放す」です。もう一つは、「自己犠牲を払う」です。
1.自分の利益を手放す
セールス手法の一つに、「商品の欠点をあえて伝える」があります。欠点を包み隠さずに伝えてくれたセールスマンをお客は信頼するようになり、成約率が高まるのです。
ほか、ブログで商品を紹介するときに「アフィリエイトリンクとアフィリなしのリンクの両方を用意しておく」という手もあります。その際、「アフィリが嫌な方は、こちらからご購入ください」と一言添えておきます。アフィリから買うのも、避けて買うのもあなたが決めていいですよ、と読者に選択権を与えるのです。
こうした姿勢を示すことにより、自分の利益よりも読者を優先していると思われ、信頼されます。
2.自己犠牲を払う
国のために私財を投じた政治家と、政治家の立場を利用して私腹を肥やした政治家、あなたはどちらの人間を信じますか? おそらく前者だと思います。「真に日本のため(利他)にやっている」と思えるからです。一方後者は、「私腹を肥やすために政治家をやっている」と思えてしまいます。
このように、自己犠牲を払っている事実が、嘘や偽りのない利他性の証明になるのです。
私が尊敬する人に、夜回り先生こと水谷修先生がいます。彼は25年以上もの間、繁華街をパトロールし、子どもたちが非行や薬物に走らないように指導してきました。全国の子どもたちから毎日何十通と相談メールが届くそうです。これだけ子どもたちに慕われているのは、水谷先生が時間と健康という自己犠牲を払ってきたからです。
もう一人、尊敬する人がいます。湯浅誠氏です。彼は1990年代からホームレスの自立支援を始め、何百人もの人たちを社会復帰させてきました。これらの活動は無報酬です。
こうした自己犠牲を払うことで「利他の精神」が本当なのだと伝わり、その人の発する言葉を信じられるのです。
ビジネスにおいて、どういった場面で利他性を伝えるか。「お客を騙してまで利益を求めない」または「利益を利他のために使っている」という姿勢を示すことです。
「お客を騙してまで利益を求めていない」の姿勢を示すには、商品の欠点を正直に伝えたり、商品を買うまでもない問題なら無料でできる解決法や代替法を教えたりします。
「利益は利他のために使っている」の姿勢を示すには、利益の一部を寄付します。その寄付もミッションと合致していればさらによいです。たとえば、「無添加洗剤で海をきれいにする」というミッションなら、海の清掃をしているボランティア団体に寄付をするといったように。
以上、人柄への信頼性を高める要素(価値観・専門性・利他性)を紹介しました。この3要素が揃ったとき、人は全面的にその人の言葉を信頼してもよい、疑わずに聞いてもよいと思えるのです。
先述してきた内容を見てお分かりの通り、言葉はその言葉を発した人と切り離すことはできません。詭弁術は、これを逆利用します。論敵の人柄を貶めて、議論に勝つのです。
主なやり方は3つあります。
(細かく分けるとまだありますが)
1.人格攻撃
社会的地位を貶める手法です。
例「あなたは以前、接触事故を起こして逃げ出した前科がありますよね。そんな人に道徳が語れるんですか?」
例「そういえば、反社の人たちとは今も仲良くやっていますか?」
2.矛盾
発言や態度が矛盾している人間だと貶める手法です。
例「あなたは個人の自由を尊重していると言いますが、同性婚には反対なんですよね」
例「セクハラをした敵政党の議員に対して辞職するよう言っていますが、あなたは以前、セクハラをした自党の議員には辞職する必要はないと仰っていましたよね」
例「不正問題について舌鋒鋭く批判していますが、あなたも以前、同じ不正をしましたよね」
3.益を得ている(損しないよ)
損得による言動をしているとする手法です。
例「太陽光発電を推されていますが、あなたのご親族が太陽光事業をされていますよね」
例「厚生年金を上げるよう唱えていますが、あなた自身、厚生年金を支払う歳ではないですよね」
こうした詭弁は、SNS上の議論(口論?)でよく見かけます。
頻繁に使われる理由は、議論に勝てる(正確には、見ている大衆を味方につけられる)からです。
アメリカ大統領選では、立候補者は自身の政策を語るよりも、敵候補者を貶めるネガティブキャンペーンに時間とお金を注ぎます。
なぜ、ネガティブキャンペーンが当たり前になっているのか。長年の経験から効果があると分かっているからです。つまり、論よりも人格への攻撃のほうが有効なのです。
アメリカと言えば、キリスト教徒の国です。聖書には「あなたたちの中で罪を犯したことのない者が、まず石を投げなさい」という言葉があります。この言葉もまさに詭弁なのです。
イエス・キリストまで詭弁術を使っているのですから、詭弁がなくなるわけがありませんよね。
感情編:感情エネルギーがないと行動しない
人柄への信頼を高めたことにより、あなたの言葉を受け入れてもらえる準備が整いました。ここから先は、実際に行動を起こさせるためのアプローチに入ります。
人を動かすには「感情」を動かす必要があります。何かを始めるにしろ、止めるにしろ、買うにしろ、どんな行動にも「感情」は必須です。
あなたも何か行動を起こそうと決めたとき、感情エネルギーが働いていたはずです。大きな行動であれば、感情エネルギーも大きかったはず。少なくとも、感情エネルギー以上の行動を人はしません。
では、どのようにして人の感情を動かせばいいのでしょうか。それには、2つの段階があります。一つは、「共感」。もう一つは、「着火」です。
1.共感
セールスライティングには、「悩みに共感して解決策を提案する」といった基本原則があります。
ここではもう一歩踏み込んでみたいと思います。
今抱えている状況に共感するのではなく、抱えている感情に共感し、寄り添うのです。
たとえば、「子どもの夜泣きに悩んでいませんか? 夜泣きが続くと睡眠不足になり辛いですよね」は、状況に共感しているだけです。
「子どもの夜泣きに悩んでいませんか? 睡眠不足が続くと、我が子に対してイライラしてしまいますよね。旦那様にも辛く当たってしまい、喧嘩になることも……。そんな自分に自己嫌悪を覚えてしまいます。その気持ち、よく分かります。お母さんは悪くありません。自分を責めないでください」は感情に共感し、寄り添っています。
関連記事:心を入れ替えた『新PASONAの法則』(例文参照)
このように、読者の「状況」を見ているのか、「感情」を見ているのかでは、文章の質が大きく変わるのです。
2.着火
焚き木となる「感情」に共感して寄り添えたら、次は着火させていきます。人の感情を大きく動かすのは、「怒り」「恐怖」「欲望」です。
怒り
怒りは、人を行動させる大きな力になります。社会運動家の多くは、「怒り」によって突き動かされている人たちです。SNS上の「炎上」もまた、怒りによるものです。「怒り」はどこから来るのか。それは、「不平等」「非道徳」からです(ほかにもありますが、割愛します)。
進化心理学では、人類は「平等(公平)」を重んじるように進化したと見ています。人類史で最も長い時間である狩猟採集時代、手に入れた食料は誰が獲ったかは関係なく、皆で分け合い助け合ってきました(貯蔵ができなかったため、手に余る食料を独り占めしても意味がなかったこともある)。
また、集団生活を維持するためには、ルールを破る非道徳な人間を罰するように進化しました。具体的には、悪い人に罰が与えられると快感を覚えるようになったのです。炎上はまさに、悪い奴を罰して溜飲を下げる活動なのです。
このように、「怒り」は人を大きく突き動かします。
ビジネスにおいて、怒りを活用したければ「仮想敵」を作ることです。「自然派商品」は、「化学物質」という仮想敵がいます。いかに化学物質が人体や環境に悪影響を与えるのかを伝えていき、憎き敵にするのです。自ずと自然派への忠誠心(愛着)が強くなります。
こうした手法は、国際政治でも使われています。どこの国とは言いませんが、日本を仮想敵とみなして批判することで、国民からの支持を集める手段に使っているのです。
恐怖
生物は、生存率を高めるよう進化しています。そのため、危険に対して極めて敏感です。
これを証明する研究結果はいくつもあります。紹介しましょう。
280単語が並んだリストを見せられた被験者は、ポジティブな単語よりもネガティブな単語を記憶しました。また、400名の脳をスキャンした実験では、恐怖はニュートラル時と比べて、脳(扁桃体)が7倍活性化しました。
参考文献:『♯HOOKED 消費者心理学者が解き明かす「つい、買ってしまった。」の裏にあるマーケティングの技術』(著 パトリック・ファーガン)
オランダの医療チームによる実験では、患者に恐怖を煽ってワークショップを進めた場合と、煽らないでワークショプを進めた場合とでは、前者のほうが後者の4倍以上も申し込みがありました。
参考文献:『PRE-SUASION』(著 ロバート・チャルディーニ)
多くの言語に共通しているのは、ポジティブな感情を表わす言葉よりもネガティブな感情を表わす言葉のほうが多いことです。
参考文献:『スマホ脳』(著 アンデシュ・ハンセン)
このように、「恐怖」またはそれに類するネガティブ感情は、感情を大きく動かす力があります。
違った言い回しをするなら、ネガティブ感情のほうがポジティブ感情よりも心の振れ幅が大きいのです。ポジティブ感情のメーターが+10まであるとすれば、ネガティブ感情のメーターは-100まである感じです。
セールスライティングの型『PASONAの法則』では、「不安を煽る」ことが推奨されています。ここまで述べてきたように、人はネガティブな感情に敏感なため、このやり方は正しいです。
不安を解消させる商品であれば、「PASONAの法則」に従って書けば、大方上手くいくでしょう。
関連記事:煽り系最強と謳われた『PASONAの法則』
欲望
人には様々な欲望があります。
分類方法も多様にあり、数え上げたらきりがありません。
ビジネスにおいて、願望の種類を知ることはさして重要ではありません。大切なのは、お客が抱いている欲望です。マーケティング用語に置き換えれば、お客が欲しているベネフィットです。
享受できるベネフィットをきちんと伝えられたなら、お客の購買意欲を喚起させられます。
先程の「恐怖」とかけ合わせれば最強です。
「恐怖」→「欲望」は、最もギャップがある構図だからです。
たとえば、収入面の悩みを抱えている人には、「小遣い稼ぎできる」ではなく、「働かずに生活できる」と伝えたほうが刺さります。ダイエットで痩せたい人には、「10Kg痩せます」ではなく、「痩せて彼女(彼氏)ができます」と伝えたほうが刺さります。
いかにマイナスからプラスに行けるのか。このギャップが大きければ大きいほど、感情を動かします。ただし、大きいことを言うからには、それ相応の「人柄」が重要になります。信頼に足る人物でなければ、人は大きな話には乗りません。
論理編:論理は感情の奴隷
論理の組み立て方や要素については、今回の趣旨ではないため割愛します。
ただ、ここで伝えておきたい事実が1つあります。それは、「人は、論理的な根拠があって意見や行動を決めているわけではない」ということです。
実のところ、人は感情で意見を決めています。そして後から根拠を見繕っているのです。これは、脳科学や心理学でも共通している見解です。
たとえば、選択的夫婦別姓問題。「~~だから私は賛成/反対」と理由や根拠があって意見を持っているようでも、先に好嫌があり、理由や根拠は後付なのです。
セールスライティングでは、商品のメリットについての根拠を並べます。この根拠は、購入意欲を喚起させるために用意しているのではありません。購入意欲のある人へ向けて自身を説得するための「言い訳」として用意してあげているのです。
こんな研究結果があります。
死刑制度を支持/不支持の学生48名を集め、死刑制度の有効性を示す証拠と示さない証拠をそれぞれに見せました。
その結果、支持派はより強く支持するようになり、不支持派はより強く反対するようになったのです。これは「確証バイアス」と呼ばれる、自分にとって都合のよい情報は取り入れ、都合の悪い情報は無視する心の動きです。
ほかにも、自分の意見が否定されるとより自分の意見に固執すること、強い信念を持っている人ほど数学的に考えられなくなること、分析力の高い人ほど自分に都合よく情報を歪めることが分かっています。
つまり、「欲しい」という気持ちを抱けば、販売ページに書かれている根拠を肯定的に受け取り、自己説得に用いるのです。
論理は感情の奴隷。
感情が先にあり、その感情を正当化させるために論理があるのです。感情を無視して、論理だけで説得を試みるのは、ただの頭でっかちです。
関連記事:【説得力のウソ】統計や科学的根拠では、人は説得できない
人はなぜ、論理力にこだわるのか
人は、論理力に強くこだわります。
確かに、論理力があるのに越したことはありません。ですが、そこまで傾倒する価値があるのかと言えば、そうでもないです。理由は、心の論理(サイコロジー)のほうが圧倒的に重要だからです。
ですが、心の論理よりも論理ばかり注目されています。
論理に傾倒してしまうのには、いくつか理由があります。
一つは、論理は客観性が担保されているため、評価しやすいからです。それともう一つ、おそらく最大の理由だと思われますが、マウンティングが怖いからです。
SNSでは、他人の意見を「論理的じゃない」と批判してマウンティングする人たちが後を絶ちません。「論破王」などともてはやされている人がいるのを見ても、マウンティングを気にする人が多いと見て取れます。
特に、論理性のなさを批判された経験がある方なら、なおさら自分の論理力が気になるはずです。こうしたマウンティング文化によって、論理性への傾倒がより一層強まっているのだと私は見ています。
えてしてそういう人たちは、人間社会を構成している「心の論理」を見落としがちです。相手が論理的ではない場合、「心の論理」が働いていることが多分にあるものです。ここを推察する力や姿勢がなければ、言い争いばかりになります。
論理的思考力を一通り学んだなら、次は「心の論理」も学んでください。全く新しい世界が見えてきます。
まとめ
心理学をはじめ、詭弁術、弁論術、レトリックを用いて、人を行動させる要件について解説をしました。ぜひ、人柄、感情、論理を上手く使いこなし、人を動かす力を手に入れてください。
以下、参考文献
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