『進撃の巨人』ピクシス司令の演説に学ぶ、心を揺さぶる伝え方

世界的な人気を誇る漫画『進撃の巨人』。
作中には、様々な名言や名演説が登場します。その中でも屈指と言えば、ピクシス司令の演説です。ウォール・ローゼの壁が壊され、恐怖で逃げ出す兵士たちを奮い立たせました。

私はこの演説シーンを見て鳥肌が立ちました。魂を揺さぶられた気がします。『進撃の巨人』の中でというよりも、歴代の漫画・アニメの中で、1、2位を争うのではないでしょうか。そしてこうも思いました。この心を揺さぶる演説は、セールスライティングにも通じる、と。

そこで今回、ピクシス司令の演説からセールスライティングを学んでみたいと思います。

まずは、演説を振り返ってみましょう。

この記事を書いた人
セールスコピーライター
深井 貴明

広島県在中。
1999年~2009年の約10年間、飲料水、化粧品、医薬部外品、エコ商品などを製造販売する会社に勤務。そこでコピーライティングに出合い、実践と研究を繰り返す。FAXDMだけで90日間に1,533件を新規開拓、2,000件に満たないリストから1億円を売り上げるなどの成果をあげる。
2009年からセールスコピーライター&コンサルタントとして活動を始める。東証上場企業、非上場の大手企業、アフィリエイト専門会社の専属コピーライターとして従事。ほか、個人事業主から中堅企業までの広告・販促物制作に携わる。
「進化心理学×行動経済学」の知見をセールスライティングに落とし込んだ独自の理論を提唱している。

ピクシス司令の演説内容

兵士らは集められ、エレンが巨人化するといった話を聞かされます。何を言っているのか理解できず、その場から逃げ出そうとする兵士が出始めます。

その時、壁の上からピクシス司令は叫びます。

ワシが命ずる!! 今この場から去る者の罪を免除する!! 一度巨人の恐怖に屈した者は二度と巨人に立ち向かえん! 巨人の恐ろしさを知った者はここから去るがいい! そして!! その巨人の恐ろしさを自分の親や兄弟、愛する者にも味わわせたい者も!! ここから去るがいい!!

『進撃の巨人』3巻

思い留まり、戻り始める兵士たち。

さらにピクシス司令は語り続けます。

4年前の話をしよう。ウォール・マリア奪還作戦の話じゃ。あえて、わしが言わんでも分かっておるがと思うがのう。奪還作戦とは聞こえが良いが、要は、政府が抱えきれなくなった失業者の、口減らしじゃった。みながそのことに口をつぐんでおるのは、彼らを壁の外に追いやったお陰で、我々はこの狭い壁の中を生き抜くことができたからじゃ。ワシを含め、人類全てに罪がある。ウォール・マリアの住民が少数であったがため、争いは表面化しなかった。しかし今度はどうじゃ。このウォール・ローゼが破られれば、人類の2割の口減らしをするだけでは済まされん。ウォール・シーナだけでは残された人類の半分も養えん。人類が滅ぶのなら、それは巨人に食い尽くされるのが原因ではない。人間同士の殺し合いで滅ぶ。我々はこの奥の壁で死んではならん。どうかここで、ここで死んでくれ。

『進撃の巨人』3巻

これが一連の演説です。

恐怖へ理解を示し、恐怖を煽った名演説

ピクシス司令の演説は、なぜこんなにも人の心を揺さぶるのか。

肝は、冒頭にあります。
「ワシが命ずる!!今この場から去る者の罪を免除する!! 一度巨人の恐怖に屈した者は二度と巨人に立ち向かえん!巨人の恐ろしさを知った者はここから去るがいい! そして!! その巨人の恐ろしさを自分の親や兄弟、愛する者にも味わわせたい者も!! ここから去るがいい!!」

兵士が抱えた巨人への恐怖に対して、ピクシス司令は共感(理解)を示します。それだけではなく、その先にはさらなる恐怖(愛する人が巨人に喰われる)が待ち受けていることを示しました。

セールスライティングでも、冒頭にお客の抱える不安に共感を示した後、不安を煽り立てるという手法があります。有名なところで言えば、『PASONAの法則』や『QUESTの法則』がそうです。

「こういった不安がありますよね。分かります。私も以前はそうでした。あまり知られてはいませんが、この問題を放置していれば、実はもっとひどいことになるんです。具体的には、こんな問題が起きます」と不安を煽ります。

こうして見ると、ピクシス司令の演説とセールスライティングの型が類似していると分かります。これは何も不思議なことはありません。人の心を揺さぶる方程式は多くないため、意図せず類似してしまうこともあるからです。

ちなみに、ピクシス司令の演説が秀逸なのが「引き」です。
「ワシが命ずる!!今この場から去る者の罪を免除する!!」は、人を注目させるに十分な引きがあります。セールスライティングで言えば、「書き出し」に当たります。

常人なら、二言目の「一度巨人の恐怖に屈した者は二度と巨人に立ち向かえん!」から入って、「(だから)今この場から去る者の罪を免除する!!」と書いてしまうでしょう。
関連記事:詭弁術に学ぶ、人を動かすセールスライティング

アイデンティティに訴える

続くピクシス司令の演説は、さらなる煽りと解決策を提示します。

「4年前の話をしよう」に続く演説で、口減らしの話からここで食い止めなければ、人と人とが殺し合う未来が待っていると伝えたのです。おそらく、兵士たちの頭には、この未来が見えていなかったはずです(視聴者も)。そして、ピクシス司令は、どうせ死ぬなら、そうならないために闘って死んで欲しいと鼓舞しました。

この流れも、セールスライティングと全く同じです。お客が気づいていない問題を教えて(煽る)、解決策(商品)を提示します。

秀逸なのは、アイデンティティにも訴えている点です。「我々はこの奥の壁で死んではならん。どうかここで、ここで死んでくれ」の部分です。「我々」とは、当然ですが兵士を指しています。

兵士とは、市民を守るために戦って死ぬ立場の人間です。市民と食料のために殺し合う人間ではありません。つまり、壁の奥で死ぬということは「兵士であることを捨て、守るべき市民と殺し合う」と同義なのです。

アイデンティティに訴える術は、人を動かすのに有効です。特にプライドや誇りを持っているのなら、その分だけ響きます。

あなたが子どもを持つ親なら、「父親なら……」「母親なら……」と言われたら、断りづらくなりませんか? たとえば、「子どもの将来を思う父親なら、学費に糸目を付けませんよね」と言われたら否定できますか? これは直接的な表現ですが、ピクシス司令の演説は遠回しにアイデンティティに訴えているため、文学性を纏っています。

恐怖を煽り、アイデンティティにも訴えた後に、ピクシス司令は「どうかここで、ここで死んでくれ」とお願い。もうNoとは言えませんね。感情に訴えた完璧な演説です。

まとめ

ピクシス司令の演説とセールスライティングを繋げてみました。

セールスライティングの構成は、大きく2つに分けられます。動機づけするための前半、説得するための後半です。前半部分で不安を煽って商品へ興味を持たせられなければ、後半がどんなに優れていたとしても成果に繋がりません。

ピクシス司令の演説は、感情へ訴えるとはどういうものなのかを、これ以上ないほどに表現しています。

セールスコピーを執筆する時は、演説を一度見てからがいいかも知れません。

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