『ドラえもん』に学ぶ、ストーリーに欠かせない要素

「人を感動させるストーリーとは?」と問われれば、私はギャップ(変化)と答えます。

ギャップは、心を動かすだけではありません。行動させる力もあります。これは科学的にも証明されていますが、何より私が今までセールスコピーを通じて物を売ってきた経験から、そう断言できます。

今回は、商業作品(小説・映画・漫画・アニメ)を題材に、心だけではなく、行動を動かすストーリーについて解説したいと思います。

この記事を書いた人
セールスコピーライター
深井 貴明

広島県在中。
1999年~2009年の約10年間、飲料水、化粧品、医薬部外品、エコ商品などを製造販売する会社に勤務。そこでコピーライティングに出合い、実践と研究を繰り返す。FAXDMだけで90日間に1,533件を新規開拓、2,000件に満たないリストから1億円を売り上げるなどの成果をあげる。
2009年からセールスコピーライター&コンサルタントとして活動を始める。東証上場企業、非上場の大手企業、アフィリエイト専門会社の専属コピーライターとして従事。ほか、個人事業主から中堅企業までの広告・販促物制作に携わる。
「進化心理学×行動経済学」の知見をセールスライティングに落とし込んだ独自の理論を提唱している。

なぜ、映画版『ドラえもん』に泣かされるのか?

TV版の『ドラえもん』には、泣ける要素はほぼありません。
一方、映画版の『ドラえもん』には、涙を誘われることがしばしばあります。その差はどこにあるのでしょうか。お気づきかもしれませんが、キャラクターのギャップ(変化)です。

映画版のドラえもんでは、特にジャイアンに泣かされます。テレビ版のジャイアンは、のび太をはじめ、周りの友だちをいじめてばかりいる暴君です。それが映画版になると、誰よりも優しさを見せるのです。このジャイアンのギャップに、見ている人の心は動かされるのです。

のび太やスネ夫もギャップを見せますが、ジャイアンほどの感動は与えてくれません。二人はジャイアンほど素行が悪くないため、大きなギャップが生まれないからです。

「ドラえもん」と「しずかちゃん」はさらにギャップがありません。この2人は常識や節度を備えており、ギャップを生む要素が少ないのです。できすぎ君が映画に登場しないのも同じ理由でしょう。

ほかの作品でも例えてみましょう。

一つは「クレヨンしんちゃん」です。
テレビ版のしんちゃんはふざけてばかりいて、家族をいつも困らせています。一方、映画版のしんちゃんは、家族を想っての行動をとります。このギャップに涙を誘われるのです。お父さんの野原ひろしも同様です。テレビ版では真剣なひろしを見ていない分、映画版の真面目に家族を想い行動するひろしは、見ていて涙が流れます。

もう一つ例を挙げると、『ダイの大冒険』です。
主人公である勇者ダイは、精神的に成長できる要素がほとんどありません。その代わりをつとめているのが、魔法使いのポップです。序盤のポップは、仲間を置いて逃げるほどの卑怯者で弱虫。そんなポップですが、旅を続ける中で成長してゆき、勇者ダイから最も信頼される存在にまでなります。私の目から見て、完全に主役を食っていましたね。

このように、心の論理(サイコロジー)は、ギャップに反応するようにできているのです。

不良が更生したら、感動するのは当たり前

漫画『こちら葛飾区亀有公園前派出所』に、SNSで時々使われる一場面があります。派出所に来た元不良を部長や中川が褒めているところに、両津がツッコミを入れるところです。(単行本42巻)

両津「まて おまえら! ちょっと勘ちがいしているんじゃねえか」
中川「えっどうしてですか?」
両津「こいつのどこがえらいんだ いったい!」
中川「ちゃんとまじめになったでしょう えらいですよ」
両津「えらいやつってのは、始めからワルなんかにならねえの! 正直で正しい人間がえらいにきまっているだろ! こいつなんかわがままで勉強もしないでやりたい事やってそれがやっと普通のレベルにもどっただけだぞ」
中川「でも……」
両津「おまえなんか、お前の大好きなパンテーラにあのやかましいバイクで正面衝突してファーカスかざった方がよかったんだ」
部長「こらっ何て事をいうんだ そういう目で かれをみるからひねくれて……」
両津「そういう部長もよくない! ごく普通にもどっただけなのにそれを えらい 立派だと甘やかしてるでしょうが! ひねくれるのは 自分の勝手なんですから! こいつから金とられたまじめな学生やバイクとられた人の方が悲惨でしょう!? 『正直者が馬鹿をみる」の手本を示しているこいつのどこが立派なんですか? 同じ年で新聞配達などして頑張っている少年の方がりっぱでしょうが どうしてそんな単純な事がわからないのですか! 部長」

両津の意見に賛同を寄せる声は多いです。
確かに、論理的に考えたら両津の言っていることは正論です。しかし、心の論理(サイコロジー)の観点から言えば、そうではありません。元不良が更生したらギャップが生じるため、心情的に評価してしまうのが人の心なのです。

セールスコピーに使うストーリーにもギャップが必要

セールスコピーの技法の一つに「ストーリーテリング」があります。ここでもやはり重要になるのはギャップ(変化)です。商業作品(小説・映画・漫画・アニメ)ではキャラクターの「心のギャップ」を描きますが、セールスコピーではどんなギャップを描けばいいのか。

一番は「生活(状況)のギャップ」です。
人は悩んでいる現状をより良くするため、または今よりもより良い生活を得るために商品を購入します。購入した後、どのように生活が変わるのかを見せなくてはいけません。

次に「心のギャップ」です。
生活が良くなれば、心も考え方も変わります。お金がないと心まで貧しくなるように、生活と心は密接に関わっています。生活の変化と一緒に変わっていく心も、描けるようでしたら描くようにしてください。

最後に「評価のギャップ」です。
生活や心が変われば、周囲の評価や行動も変わることがあります。見下されていたのが尊敬されるようになった、モテなかったのがモテるようになった、といったように。

この3つのギャップを全部盛り込めるのが理想ですが、生活のギャップを描ければ十分です。
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まとめ

商業作品のストーリーを題材に、セールスコピーに使えるストーリーついての解説をしました。
ギャップがいかに人の心を動かすのかを意識しながら鑑賞できれば、得るものがあります。

ぜひ、コピーライター目線でストーリーを観察してみてください。

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